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ぬるいしあわせ

ぬるい、部屋のなかの空気が、台風の前独特の空の色が、きちんと満月とともにやってきた生理中の身体が、心地よくぬるい。

夕方とはいえまだ日は高く、灰色の空とはいえ部屋のなかが真っ暗になることはない。

お互いに何を話すわけでもなく、リビングのテーブルの向かいに座る同居人(ぽん)を眺めていたら、この奇妙な3人暮らしの始めも台風だったことを思い出した。

まだほとんど家具もなかったこの部屋で3日間の停電を我々は乗り切ったのだ。

街灯もマンションの電気も全部消えてるから、夜、散歩から戻ったとき、星空が宜野湾の上にばーっと広がったあの景色を、わりと今でも覚えている。

わたしこの暮らしが好きだ。

そう思いながら、ぬるさのなかに身体ぜんぶ心ぜんぶ溶けながら、部屋で過ごす。

わたし台風のことも好きだ。

まだ大学生で、一年生の夏からあまりにも自然にともにいることになった大切なひとのお家で過ごした初めての台風はとっても楽しかった。

夜も朝もなく眠り、お互いの身体の境目がわからなくなるくらい隣にいて、アニメを見たり映画を見たり、思い思いに過ごしながら、スーパーで買ったお弁当を食べ散らかして、次にポテチを食べ散らかして、また眠った。

あのときも、すごく部屋はぬるかった。

あの幸福な暮らしだって、2年前に終わってしまって、そのあともう二度とやってこない。

この幸福な暮らしだって、来年の3月には終わってしまう、そしてもう二度と体験することはない。

似たようなものには出会えても同じものには出会えない。

似たようなものなんて欲しいとも思わないけど。

それが悲しくも切なくもないのは、今日がぬるいからだと思う。

ぬるいというのは、なんかまるっとゆるしてしまえる。

この暮らしすべてを愛おしく思うよ、いらだちも、ストレスも、些細な幸福も含めて全部、全部。

覚えておきたい、ぜんぶ。

この単調なよろこびを。

嬉しくなったのでコーヒーを淹れた。

さんご黒糖をたっぷり淹れて、豆乳を注いだ。

一杯分より二杯分、きっちりより適当にいれたときのほうがコーヒーは美味しい。

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