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あぎじゃびよー

「こんな小さい字だと読めないねぇ」

さっきまではいなかったそのひとに何の気なしに目をやれば、わたしの胸くらいまでの背のおばあちゃんがそこにいた

さっさっと真横に無造作に引かれた眉とは対照的に丁寧に目のまわりに薄紫のアイラインの線、薄い茶色のキレイなまん丸の目

目がぱっちりと合う、ぱちぱち、瞬きをし合うのもつかの間

「どこに行くの」

気づいたらその言葉がじぶんの口から漏れ、言われるがままに乗るバスを探し、一緒に待つ

「寒いね」と言えば「あぎじゃびよー」と返す

「このバスは違うね」と言えば「あぎじゃびよー」

「おなか空いたよね」「あぎじゃびよー」

なんならかぶせ気味に「あぎじゃびよー」

もういいやと思って、話しかけるのをやめた

ただただバスを待つ

ニコリともしないおばあちゃんと一緒にバスを待つ

あ、と思ったら、おばあちゃんが乗るバスが来た

「これだよ、これ」入り口とは違うところに並ぼうとするおばあちゃん

背中に手をあて、こっちだよーと乗せる

振り返りもしないでバスのなか入っていく背中を見送る

バス停からすぐ見える優先席によっこらせと腰掛けるのを見届けて、なんだかホッとしてしまった

振り返りもせず、最後まで一度も微笑まず、10回くらいあぎじゃびよーと言って去っていった

おばあちゃんはどんなひと

どんな家族がいて、どんな用事で那覇に来て、どこへ行こうとしているの

知らないまま、バスに乗るのを見送って、わたしはわたしのバスを待つ

じぶんのバスが来るとホッとする

これに乗ってちゃんと決められた駅で降りればお家に帰れる

お財布のなかを見て小銭があることもチェックする

そしてまたホッとする

バスに乗ることも、きっぷを買ってどこかへ行くことも

時間どおりに決められた場所へ行くことも、本当に苦手だ

何回も何回も確認しないと気がすまない

確認していないで調子に乗ると、たいていミスをする

こんな性分じゃなかったら、バス停で遭遇した愛想の悪いおばあちゃんなんかどうでもよくあしらうかもしれない

苦手で、いつもそうやって誰かが助けてくれるから、やっぱりなんだかんだ他のひとにもするんだろう

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こないだ京都へ出張に行ったときも、いろんなひとが助けてくれた

ホテルの近くの駅を降りるタイミングで携帯の充電が切れ、パソコンの充電も切れ、途方に暮れていたのだ

記憶をたよりに通りを探し当て、暗い横道に入ったら立っていた人影にびびって走り出してしまい全く違う道に出て、途方に暮れるpart2のところにヤマト運輸の明かり

息を切らして入ってきたわたしがたどたどしく事情を話すと、うんうんと聞いてくださってホテルの名前を頼りに紙の地図をさららさらと書いてくださった

「京都をたのしんで」と声をかけられ見送られながら、よくよくお礼を言いお店を出る

言われた通りに歩いていったはずが、しばらくするとまた迷い、真っ暗な道にびびりながら進んでいくと交番の明かり

「迷ってしまって・・・」と先程の紙の地図を差し出せば、ここからこういって、と道を教えてくれるおまわりさん

おまわりさんだけど人見知りのようで、一度も目を合わさず、終始なぜか照れながら道案内をしてくれたので新人のおまわりさんだったんじゃないかと推理している

と、どうにかこうにかホテルについたのだ

そういうことがいっぱいある

ざーざーぶりの雨のなかバス停からどうやってコンビニまで避難しようか考えていたら、高校生が助けてくれたこともあった

「あの、」と言って声をかけてくれたその子は、わたしと同じくらいの背格好で、制服を少し着崩して、髪もちょっとやんちゃな様子

ところどころ汚れてる少し大きなビニール傘に入れてもらって、コンビニまでしばし相合い傘

ぽつりぽつりと、卒業したら美容師になりたいと思ってると話をしてくれた

わたしはじっとりとワンピースが足についているのが気持ち悪かったのだけれど、彼の話にほっこりして、何か飲み物でもと言ったら断られ、逆に連絡先をきかれたけれど、それはなんだか粋じゃないと思って断った

もうたぶんきっとどのひととも再会しないだろうと思う

人生が重なったのは一瞬で、死ぬ前には思い出さないような小さな小さな思い出だ

だけれども

だけれども、名前も出身地も肩書も所属も知らないひとと、ふとしたときにアクシデントのように会話が起きるのは、ご縁が結ばれるのは、ただただ嬉しく感じている

いつも、そのあとのそのひとの人生が幸福ですようにと祈る

ひととのご縁の重なりは不思議だ

理解できないしコントロールもできない

あんなに好きだったひとも、同じ日本で生きてるらしいのに全く存在を感じない

ただただ迷惑をかけてしまったことを申し訳なくときどき思い出す

しょうもないメッセージを送ったことを思い出しては枕に顔をうずめて呻く

返事がないのがお返事だと、脳内反省会vol.○を飽きるまで開催する

ふらっと重なるバス停のご縁のように、ナチュラルにご縁を紡ぎたい

しがみついたり、握りしめたり、そういうことはもうしないようにしたい

たいていそれは失敗して、わたしもまわりも疲弊してしまうから

今日出会った無愛想なあぎじゃびよーおばあちゃんは、とっても無愛想だったけど、なんだかちょっとふふって笑ってしまう無愛想さだった

おばあちゃんのこと好きだと思ったけど、ただそれだけだった

なんだかそういう、まだうまくいえないような軽やかさでもって、出会いを紡ぎ続けられたら、ご縁を眺めていられれたなら、いいなって

これからはそういう風にしたいなぁって思うような出来事だった