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ハッキンカイロ

非電化工房にいると生きるのがシンプルになる
頭のなかでごちゃごちゃと渦巻いてたものが、すっとどこかに流れていく

でもその代わり、なんだかとても寂しくなることが多い、あたたかな寂しさである

先生がゆっくり作ってくれたココアを飲みながら、これからの活動の方針をどのように伝えたいのか整理もつかず、ただ黙って貸してくれたカイロをさすった

何度来てもこの場所に馴染みきらず、でも馴染み切りたいじぶんもいるのを噛み締めながら、先生と真っ暗な道を月の光が照らすなか、黙ってただただ歩いた

わたしがなにか言えば先生は笑ってくださるけど、その笑い声よりもよっぽど沈黙の共有の方が魅力的だと思った

なんでこんなに寂しいのか、なんで先生と同じ時代に生まれなかったのか、なんでおばあちゃんは歳をとるのか、なんでラートの本村先生は電話一本であんなに喜んでくださったのか

時々訪れる寂しさは理由を探すに足るものじゃないと先生は笑う

ただ冷え込んでいるだけだから
夏よりも日が照らないせいだから

下を向かずに前を向き
前を向かずに少し上を眺めて歩きなさい

先生はいつもニコニコとして言う

意味がないのを知りながら、誰かに気持ちを伝えたくて景色を文に、記憶を言葉に

今日のことさえも断片的にしか思い出せなくなるのだから、何度も取り出し磨けるように、心を込めて言葉を並べる

先生と歩いている間、わたしは何かとても大切なことを思い出しそうだった

それは毎日の仕事のなかの失敗よりも、誰かとの会話のなかで褒められたことよりも、記憶の奥底で突き刺さったままのトゲよりも

なによりも大切なことだと思ったのだけれど、結局最後まで思い出せなかった

宿について仕事をしてるときに、ふっとわかったのだ

大切なのは思い出すことではなく、あの時間、ただ黙って二人でしんとした空気のなか、大きな生き物のような雲が月に照らされ優雅に泳ぐなか、山のふもとのあぜ道を、ただ歩く、ただ歩く、その時間の共有が大事なことだったと

なぜこんなに愚かなのか

大切なことはただ感じ続けるだけだった
瞬間を、先生の存在を、共に歩む喜びを

でも、ひたすら考えてしまった

なぜ今共に歩いているのか

答えなどありゃしない、そこに意味などないのだから

もう誰かといるときに、そのひとと共にある意味を考えることは二度とない

意味がないだけじゃない、その一生のなか星と星のみち重なる美しい瞬間への冒涜になってしまうから

どこまでいってもひとりぼっちだ

それは気高く美しいことだ
そしてそれはすべてと共にあることだ

あなたと本当の意味で時間を共有するために、わたしはひとりで生きていて、生かされていて、ひとりをゆるされている

胸にあてたカイロはまだぽかぽかとして、先生が首から下げるようつけてくれた麻紐は痒くて捨ててしまった

ずっと探していた答えは、いつも日常のなかにある

自分探しと年上の人に揶揄されたって、笑ってゆるしてしまう

探さずに生きられる気なんかしないもん

そして、他者との差異からしかじぶんの形などわからないのだから、じぶんの形を大っぴらにすることは、誰かの形を明らかにすることの役に立てるのではないかと思うから

どんなに笑われたって、わたしはこの生き方を選ぶだろうし、書くのはやめられないし、笑う人より喜ぶひとが多いから、それでいいんだと今は思うのね

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あなたが生きていることに意味がある
あなたが何をするかには意味がない

あなたがそこにあることに意味がある
あなたがどのようにあるのかには意味がない

あなたがあなたでいられるように
わたしはもっとわたしでいたい

あなたがあなたでいられないとき
誰かの誰からしさはあなたを傷つける

そのときだって
やみくもに慰めたりせずに
せっかくの傷を土で埋めたりせずに

ちゃんと乾いて、新しく強い皮膚になるのを、黙って見守る強さがほしい

どんなときも、あなたはあなたで、わたしはわたしだ

あなたが誰かに認められようと美しい衣を身にまとうときも、わたしは黙ってあなたのそのままの身体を賞賛したい

あなたが不安にかられ涙するときも、わたしは淡々と解決策のアイデアを出し続けたい

でも、慰めるほうが簡単で、馴れ合うように褒めるほうが簡単で、嘆き続けるほうが簡単だから、なんだかときどき全部がわからなくなってしまう

そんなとき、わたしは傷つき、嘘を重ね、嘆いてしまう

だけど、そんなとき、あなたは黙ってわたしの手を引いて、美しい自然のなか溶け込ませてくれる

そのときやっと思い知る

最初から不安がなかったことも、どんな心の動きも誰かや何かを大切に思うがゆえだということも

嘆いてるときも、不安なときも、傷ついているときも、まったく関係なく世界は呼吸を続けていることも、こんな命、そのリズムのなかに生かされているだけということも

思い出す

身体のなかには海があり、身体に沿うように緑があり、その先には空がある

全身を走る血の流れのなかにはたくさんの生き物の命があり、毎秒毎分間違わずに働き続ける臓器のなかにはたくさんの生き物の意思がある

ただ生きる

生を全うする

全部で生きる