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自然に生きているということがわかる不自然さ

3ヶ月ぶりにきた生理(ほんとうは「きてくれた」と書きたいくらい)はやっぱりいつもの感じとは違って、身体がとても気持ち悪い。一ヶ月に一回きていたのが三回分と思えば、身体にかかる負荷も大きくなるよなと苦笑いしながら、朝はベッドのなかに横たわっていたくてつい泣いちゃった。
いつも送ってくれるタクシーのおじさんが「これわかむんの歌だろ」って言って、もともと中古車だったそのタクシーに前の運転手のひとがいれっぱなしだった音楽を流してくれた。「自然に生きているといった。自然に生きているということがわかる不自然さは一体何だ。」という歌詞が妙に印象的だった。
“わかむんの歌”かもしれないけれど自分は知らないバンドだったことを伝えると「そーかそーか、日曜日も仕事か、えらいな」といって、いつもまけてくれてるけど、いつもよりもうんと安くしてくれて「いってらっしゃい」と送り出してれた。

大丈夫って信じてくれるひとがいなかったら、好きだよって言ってくれるひとがいなかったら、すごいねって褒めてくれるひとがいなかったら、わたしはたぶん明日さえ生きていけない。そんな今日を過ごしていて、そんな昨日を生きてきた。

おととい「あなたの活動を見てるとほんとに認めてほしいのは、もっと一番近いひと、お母さんじゃないの?って思うよ」って言われたときに、からだのなかが沸騰するような怒りがわいた。とても醜く激しいその怒りを前に、どんどんと萎れていく何かがあった。

やっと部屋にたどり着いたあと、まだそんなとこにいるのかなぁいつまでそんなとこいないといけないのかなーってため息ついた。部屋を真っ暗にしてセンチメンタルに浸ろうと思ったけど、まっくらな部屋のこわさにビビって2秒で蛍光灯のスイッチオン。

「お前はもう大人だよ」そう言ってくれた叔父さんの言葉を何度も脳内再生。何度も聞き直すうちに鼓動が元通りになる。ここまでやってこれたのだ、と背筋を伸ばす。生まれてきて生きていく、その積み重ねのなかの一瞬を共有した小さなお家。もうわたしは22歳で、もうすぐ23歳になる。24歳になれば、そこでの暮らしは人生の約半分の出来事、それ以外の出来事が約半分になる。

しんどかった出来事も、してほしかったことも、してあげたかったこともいっぱいある。でも、それだけじゃない。その経験ってぴったり表と裏面くっついている。あの暮らしがなければこのわたしはいないけれど、あの経験がなくてもこのわたしだったと、そう思う。

あのときにあれをしてもらえなかったから、あのときにあれをしてあげられなかったから、あのときにあんなことをしでかしてしまったから今のわたしがあるだなんて1ミリも思わない。絵に描いたようなかわいいお家かわいい暮らしのなかで年を重ねても寸分違わぬ姿で今のわたしがいる。

ひとりの人間としてこの星に立つ。「お前はもう大人だよ」と言ってくれた叔父に、お正月「お、世捨て人」とからかわれ笑われたのを思い出す。いいね、世捨て人。今更にやりと笑うわたしがいる。

家族はひとつとても大切な絆だ、でも大切さは限定的でなくてもいい。あなたはあなたの生きたいように、わたしはわたしの生きたいように生きられたらいい。

誰かからもらいたかった甘やかしを、誰かにあげられなかった素直な言葉を、あげられる誰かに出会えたときの喜びが大きすぎて隠すこともできずに身体から溢れ出る。

今はこうやって生きていたい。今のじぶんの何かがとんでもなく間違っていて、とんでもなく誰かを傷つけてしまったとしても、今はこうやって生きていたい。じぶんのなかにある思いや言葉や考え事に寄り添いながら、ひとつひとつを形にしたい。

あの瞬間、怒りに震えた幼いわたしの頭を撫でる祖父の姿を時間差で感じてる。いつもありがとう。みんなお互いに愛し合ってるけど、タイミングとか、言語の違いとか、色合いの差とかでうまく交換できないだけなんだよね。でも、それさえもたぶん起こるべくして起きてる差異。ぴったりくる相手に出会ったときに、ぴったり収まる言葉に出会ったときに、それを体感しやすくするためのヒントのための差異。

なんにせよ、この逡巡をわたしは次の世代に持ち越さない。ひとりにひとつの答えがあっていい、みんなと同じ言葉で話せなくていい、みんなと違うテンポでいい。そう生きられる社会になってきているし、10年後はもっとだ。33歳のわたしが笑う。今よりももっと明るい顔で、今よりももっとたのしそうに生きるわたしと出会えるのを、10年前の今、とっても楽しみにしてる。

海に向かう車の助手席、片手で缶ビールを開ける。缶をあけるこれをタブということをどこで覚えたか、もう思い出せない。喉に流れていく苦い飲み物を美味しく思う感覚は「タブ」を知った頃はまだ持っていなかったと思う。そんな喜びを体感するためだけに存在する"時間"とハグする。今わからないことは、今はわからなくていいこと。これから先にわかる瞬間が訪れるから。